避暑

ちりん、ちりん。
ときおり風鈴が涼やかな音を奏でる。
だがそれも、この猛暑の中にあってはほんの気休めにしかならない。
「う゛〜、あついよぉ」
縁側でうちわをぱたつかせながら寝そべっている少女が、うわ言のようにつぶやく。
「海でも行ってこようかな?……でも外に出るのはイヤだな〜」
たしかに直射日光に当たったら溶けてしまいそうな暑さである。
さりとて、日陰とはいえここにいても十分に暑いことに変わりはない。
しばし考えてから、仕方なさそうに立ち上がる少女。
「…炎天下を歩くよりはいいよね」
そして持っていたうちわを軽く振る。
すると、うちわはゆらりとその姿を消し、
かわりに少女の身長よりも少し長いくらいの不思議な杖が出現する。
「テレポートって、どうも苦手なんだよね。
この前は『いしのなかにいる』になっちゃったし、
その前はお城の濠に飛び込んで寒中水泳する羽目になっちゃったし…」
そう、少女は幾千の魔物を瞬時に焼き払うほどの攻撃魔法の使い手なのだが、
空間転移魔法だけはどうも苦手なのである。
いまだに少女が”見習い”を卒業できないのは、そういうわけなのだが…。
ひとりごとを言い終わった少女は、杖を構えると静かに目を閉じ呪文詠唱に入る。
力の込められた言葉が紡ぎだされるに従って、周囲の空気が徐々に張り詰めてゆく。
風が凪ぎ、空間が凍結したかのように錯覚する。
そしてその緊張感が極限まで高まった瞬間。
「MALOR!!」
かくして少女は消えた。

出現した先はとても涼しかった。
というか寒かった。
というか空気がなかった。
「ほえ?
テレポート先の座標、また間違えちゃったかな…」
<了>


使用ソフト
Adobe Photoshop 5.01(フォトレタッチソフト)

落書きです。2頭身です。白のワンピースです。
しかし、気が付くともう夏は終ってるし…。
一応、魔法少女見習いという設定で。
そして文のほうは、ちょっぴりWizネタなのであった。

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