暗き闇に響く聖なる言霊。
どさり、どさり。
十数体のアンデッドモンスターの体が崩れ落ち、土へと還る。
それでも魔物の群れは怯むことなく殺到してくる。
気配から察するに残りは三十匹程か?
対するは小柄な少女ただひとり。
白衣に緋袴という巫女装束を纏った柊である。
ここは地下迷宮の中層にある神社の奥殿前。
そして今日は月一回の掃除―境内に巣食う魔物を一掃する―の日である。
霊脈の関係で魔物が集まりやすいこの地にある神社では、
景観の保護と参拝客(実際は殆どいないのだが)の安全のために、
定期的な”掃除”が巫女の務めとなっているであった。
不意に鋭い爪による一撃が柊に迫る。
だが、特にあせる様子もなく回避、そして反撃。
MALIKTOの呪文が炸裂し魔物の左翼が乱れる。
その隙を突いて更に呪文詠唱を重ねる。
BADI!
手にした竹箒を一閃しながら解き放った一撃死の呪文が敵の群れを捕らえる。
本来なら単体攻撃用の呪文だが、彼女はそれを全体攻撃へと効果を拡張したのだ。
それはまさしく殺戮の嵐。
呪文抵抗を持たぬモンスターはなす術もなく次々に息絶えてゆく。
やがてモンスターの倒れる音は止み、土埃が晴れる。
屍の山の中に佇むのは柊と、あとはポイゾンジャイアントが三体。
下層階から迷い込んできたあろう、
本来ならこのフロアにいるはずのない巨人は、
猛毒のブレスを吹きながら柊に躍りかかる。
ブレスが柊の巫女服の袖をかすめる。
と、次の瞬間、首筋に箒の柄による一突きを食らい、
あっけないほどにポイゾンジャイアントの巨躯は轟音を上げて地に堕ちる。
続けて二匹目、三匹目も同様の末路を辿る。
忍者にも劣らぬ高速移動からのキリジュツ。
もはや柊の存在はプリーストの範疇を超越していた。
辺りを見回す。
死屍累々の中にもはや立っているものはいない。
そして”掃除”は最終段階に移行する。
柊の清らかな声が辺りを満たす。
その荘厳な調べは、死していった魔物たちへの鎮魂の歌にも聞こえる。
一心に呪文を詠唱する少女の目はいつもと変わらぬ半眼で、
そこに喜怒哀楽の色は見出せない。
柊の小さな体から溢れ出した光は徐々に広がってゆき、空間全体を包み込む。
やがて魔物の亡骸も光の粒子に変換されてゆく。
そして場の緊張感が極限まで高まった瞬間、
柊は普段より少しだけ大きな声でこう唱える。
「………囁き………詠唱………祈り………念じろ!」
無数の光が闇に弾けた。
それは宙をしばらく舞い踊った後、天へと昇りやがて消えていった。
そして生者も死者も無に還り、
境内には柊がぽつんと佇むだけになった。
KADOLTOをわざと失敗することによる死者の完全消去(ロスト)。
それこそが”必滅の魔女”と渾名される彼女の奇跡の力だった。
もう一度辺りを見回し、”ゴミ”が残っていないのを確認すると、
柊は箒を手に地上へと続く階段に足を向ける。
「………掃除完了。………帰ってみなものおやつ………」
そこでようやく柊の表情に微かな”喜”の感情が浮かび上がった。
だがそれも一瞬のこと。
またいつもの無表情な半眼に戻ると、階段の先へと進んでいった。
<了>
wiz風味文章付き落書き第6弾。
前作で初登場した柊のメイン回です。
巫女さん大暴れ、っていうかやり過ぎた…。
そんな彼女でもパーティーの中では大人しめ。
前衛の紅葉、みなも、パルの直接攻撃と
後衛の青葉の呪文攻撃が圧倒的なので、
柊はその傍らでたまにディスペルと回復呪文を使う程度の扱いです。
次回もまた新キャラ登場予定。(またかよ)
今度のキャラは今までのキャラとちょっと立ち位置違いそうです。
2008.9.7