剣雨

「てえぇー!」
「SOCORDI!」
二つの声は同時だった。
虚空に浮いた20本程のショートソードが風を切って飛ぶ。
そしてそれを遮るように出現したゴーレムを滅多刺しにする。
ゴーレムは崩れ落ちるように倒れ、ゆっくりとその姿を消す。

攻防はこれで3度目だった。
紅葉は自分たちの前に立ちはだかる少女を見た。
白と黒に彩られた少女は丸腰にもかかわらず不敵な目をこちらに向けていた。
最初はメイス、次はダガー、そして今度はショートソード…。
少女は何もない空間から無数の武器を取り出しては飛ばすという、
常軌を逸した攻撃を仕掛けてきたのだ。
「どうしましたの、防戦一方ですわよ。
私の武器とあなた達のSOCORDIのスペル、
どちらが先に尽きるか勝負いたしますか?」
少女が余裕を浮かべた表情で挑発してくる。

「くっ…」
苦い表情を浮かべながら紅葉は考えた。
誘いに乗ってみるか?
いや、駄目だ。
あれはおそらくBLACK BOXを入れ子構造にして
相当数の武器を貯め込んでいるに違いない。
持久戦はこちらが不利。
とはいえ迂闊に近づけば串刺しである。
じゃぁ、どうすれば…。

「攻めてこないのでしたら、こちらから行きますわよ」
少女は右手を高く上げ、それを振り下ろすと同時に叫んだ。
「13番、29番、てえぇー!」
少女の周囲に出現するロングソードの群れ。
それらは切っ先を紅葉たちに向けて次々と飛翔する。
慌てて再度ゴーレムを召喚する青葉。
迷宮の通路を塞ぐほどの岩の巨体は飛来する剣をなんとか受けきり、
一拍置いて地に倒れ伏した。
巻き上がる土埃。
と、その向こうから更に無数の剣が襲い掛かる。
「時間差攻撃!?」
次のSOCORDIは…間に合わない。
狭い迷宮の通路であれだけの数の剣をすべて回避するのも不可能だ。
万事急すか?
紅葉は唇を噛むと、
せめて死を運ぶ弾丸の数本だけでも撃ち落そうと
ハースニールを手に一歩踏み込む。

そのとき。
「対投擲兵器用秘奥義………熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」
赤き輝きが辺りを照らす。
突如現れた光り輝く巨大な傘。
それは紅葉たちを覆い、降り注ぐ剣の雨をことごとく打ち払った。
やがて光が徐々に収まり、やがて空気に溶けてゆくと、
そこには無傷で佇む紅葉たちの姿があった。
その中心にいるのはみなも。
みなもは右手を前に突き出した姿勢のまま高らかに宣言した。
「お嬢様には指一本触れさせません!」

「一体何ですの…?」
自信を持って繰り出した攻撃を鮮やかに弾き返され、
少女はたじろぐ。
それに追い討ちをかけるかのようにみなもは言う。
「どうです、あなたの武器と私の奥義、
どちらが先に尽きるか勝負しますか?」
その右手には揺らめく赤い光が灯っている。
「なっ…」
自分のセリフをそっくりそのまま返された少女は
みなもを激しく睨み付ける。
今まで優雅に振舞っていたが、案外気が短いようである。
それに対してみなもは静かに目を伏せる。
「…いえ、その必要もなさそうですね」

そう、既に手遅れだったのだ。
相手の一瞬の隙をついて紅葉が放ったハースニールは
少女の首筋にぴたりと刃を突きつけたまま滞空している。
そして青葉は一対のマジックガントレットを展開し、
今にもTILTOWAITを放とうとしている。
みなもの技には紅葉たちも驚いていたが、
こういう場面で咄嗟に反撃に転じられるのは
さすが迷宮最凶パーティーと言われるだけのことはある。
少女の顔がにわかにひきつる。
そんな少女に対して紅葉は、
どこからともなく取り出した地獄の破城槌を手に一歩近づく。
「さんざんあたしたちを弄んでくれたあなたには特別に選ぶ権利をあげるわ。
………”鋼鉄粉砕”と”轟天爆砕”どっちがいい?」
紅葉は最上級の笑顔でまた一歩近づく。
一方の少女は剣を突き付けられているので動けない。
「ええと、…他の選択肢はないんですの?」
「選ばないならこっちで勝手に決めるから」
輝くほどの満面の笑みを浮かべる紅葉は、
もう少女の目の前まで来ている。
そして、
「光になれぇ〜〜!!」
全力で地獄の破城槌を叩き付けた。


爆発。
轟音。
閃光。
そして網膜を焼く金色の光芒が薄らいだ後、
爆心地には誰もいなかった。
代わりに壊れた兜が転がっているだけ。
「くっ、転移の兜で脱出したか。往生際の悪い奴め」
悪態をつく紅葉だが、もう敵はいないのだからどうしようもない。
「それにしても今の子、何だったんだろうね?」
と、魔法の篭手を肩掛けかばんに仕舞ながら青葉。
「そうですね。突然襲い掛かってきたと思ったら、
さっさと逃げてしまいましたね」
「もし今度見つけたら、キッチリ問い詰めてやらないとね。
その時には今回の借りを十倍にして返してやるわ。
…それより、今の戦闘でだいぶ時間が経っちゃったから、
今日はそろそろ帰らない?」
「そうですね。お嬢様、帰ったら夕飯にしましょう。
今日はオムライスなどいかがでしょう?」
「………賛成」
といつもの半眼で柊が答える。
先程の戦闘中も表情を全く変えなかったところが
さすがというかなんというか。
「じゃあ、帰るとしましょうか」
紅葉の号令でぞろぞろと踵を返す面々。
そして石畳に靴音を響かせ、
ゆっくりと激戦の場を離れてゆくのだった。
<了>


使用ソフト
Adobe Photoshop 5.01(フォトレタッチソフト)

wiz風味文章付落書き第七弾。
…とか言いつつ、Fateやらガガガやらリリカルやらの
ネタが混ざってるのは仕様です。
今回の新キャラは紅葉のパーティーに敵対する少女。
名前は綾佳、悪のファイターです。
作中通りのアイテムコレクター。
ちなみに戦闘中に放ったアイテムは、基本的に戦闘後に回収します。
今回は逃げるだけで精一杯で、回収する暇がなかったんですけど。
次回作は未定。
このシリーズの登場キャラにはいずれも愛着があるので、
なんか思いついたらまた書き(描き)ます。

2008.9.22

back