彼女の放った烈光閃(ブラスター)は、3番ビットの展開したシールドを貫く。
微かな衝撃。揺れる視界(ビジョン)。
―ダメージは?―
オペレーターは即座に返答する。
「占有領域のうち5743個のブロックが破損しました」
く、俺としたことが…。
2番ビットの呼び出した時空反転砲が咆哮する。
追尾軌道は完璧に入力されているはずだ。
だが、弾丸は命中の直前に四散し、低次元空間へと落ちて行く。
沈黙閃(サイレンサー)だ。
彼女は占有領域すら損なうことなく、相変わらず浮かんでいた。
彼女の手が緩やかに動いた刹那、オペレーターの警告が俺の聴覚神経を打つ。
「来ます!」
そして体感時間にして0.84ミリ秒後、そいつは来た。直撃だった。
彼女の繰り出した消滅閃(イレイサー)は、
俺の左脚を59万4000ブロックの占有領域もろとも
文字どおり完全消滅させた。
もちろん生体部品の再生など造作もないことだが、
再生機関自体がいかれており、モザイク状に擬似再現するのが精一杯だ。
だが、俺とて黙って受けた訳ではない。
4番ビットの放ったH.W.C(ヘビー・ウェイト・キャノン)は
今度こそ彼女の占有領域を捉えた。
このH.W.C、超大質量の弾丸を打ち出すだけの3次元兵器だが、
より高次の次元をも歪ませることが出来る。
「シフト!」
同時に彼女の姿が消える。
目標を失った光弾は遥か遠方へと飛び去っていく。
彼女は一時的にコアをこの6次元から1次元に転送したのだろう。
そして無限機関の生み出すエネルギーは、
それを再び6次元へと送り帰す。
実体化する彼女。
その右肩を食いちぎる俺の位相拡散機雷。
次元間移動も計算に入れ、待ち伏せていたのだ。
吹き飛んだ腕は、七色の光芒とともに揺らいで消えた。
彼女も再生機関の調子が悪いらしく、擬似再現しかしできていない。
そして1番ビットは…。
一体どれほどの間、闘い続けているのだろう、俺達は。
いや、コアを主に6次元に配置している俺達にとって、
もはや時間など何の意味も持たなかったな。
始まりも、そして終わりすらもない戦い。
2人だけの戦い。
2人だけの世界。
何処まで続くのだろうか?
―潮時だな。
「オペレーション”残霧”に移行する。あれを出せ!」
俺の思考に答えたのは4番ビットだった。
徐々に実体化する棒状の物体。
そう、太古にカタナと呼ばれていたものだ。
俺は、ほのかに輝く澄んだ刀身を抜き放つと、こう叫んだ。
「我が心、まさにここに在り!!」
音波は6次元の空間に波紋を描いて広がっていく。
彼女は動きを止めた。
やはり、彼女の”心”も俺の”心”を感じたのであろう。
ややあって、彼女も自分の”心”をこの世界へと具現させた
―すなわち金色のランスを。
そして左手一本で強く握り締める。
俺達は心を外に出すことはめったにない。
何故なら、心と心が触れ合ったとき、その一方または両方が
あらゆる次元から完全に消えてしまうからだ、あとかたもなく…。
だが、それもいいさ。
永遠という名の戦いに終止符が打てるというのなら。
断裂閃(スライサー)を無数に放ちながら接近する彼女。
俺も、自分を中心に正四面体を描くように4つのビットを配置し、
間合いを詰めていく。
彼女の猛攻を必死で支えるビットたち。
左後方の3番が沈む。そこから俺の占有領域は即座に削られていく。
だが、あと僅か。そう、僅かなのだ。
そして俺のカタナと、彼女のランスが交わる!!
”心”が触れ合う瞬間……。
そしてすべては無に帰した。
<了>