石造りの巨大な螺旋階段。
風雨にさらされ蔦に覆われた、いにしえの建造物。
それはこの庭を抱いて、遥か天空へと伸びてゆく。
正八角形をした中庭は一面の緑。
艶やかな芝生が綺麗に敷きつめられている。
そしてところどころに顔をのぞかせる水晶柱。
無色透明な天然の至宝は、陽光を受けて七色に輝きだす。
遠い日の約束。
待ち合わせの場所。
どっちが先に頂上に着けるか、よく競走したよね。
そして、眼下に広がる風景を並んで眺めたよね。
それから幾星霜。
風景は世界に忘れ去られ、
ただ、時だけが緩やかに流れてゆく。
ふいに緑の絨毯がなびいた。
ぼくの頬を風が撫でた。
懐かしいきみの香りがした。
…そうか。
きみは風になったんだね。
純白の翼はなく、姿さえも見えないけれど、
ぼくにはちゃんと分かるよ。
だってこの風の中にいると、何故かこころが優しくなれるから。
そう。
あの日と同じように。
さあ、行こうか。
美しい庭に別れを告げて。
幻想的な景色だけをこころに刻んで。
そしてここから高く高く翔け昇り、二人で無限の空へと。
ぼくの翼をきみに委ねて…。
<了>