灰色の空。
灰色の街。
モノクロームに沈んだ世界。
時の止まった世界。
吹き散らされた木の葉も、滴り落ちる雨の雫も、
空間に射止められたまま微動だにしない。
すべては永遠にそこに在り続ける。
…世界に時が戻るまで。
光。
光だ。
無彩色のキャンバスの中に浮かぶ唯一の色。
青白く揺らめくそれは、緩やかな螺旋を描きながら
無表情な閉じた空へと昇ってゆく。
静かに。静かに。静かに……。
それはなんだったんだろう?
消え入りそうな小さな灯火。
儚く悲しい命の欠片。
天空の頂きに辿り着いたそれは最後にひときわ眩い光芒を放つと、
誰にも悟られることなく、ふっと虚空に溶けた。
あたかも初めからここには存在しなかったかのように…。
やがて世界に”いつも”が戻ってくる。
色とりどりの傘の群れがゆらりと流れ出す。
空からは相変わらず雨粒を落しているけど、それでも道行く人たちは楽しそうだった。
そして世界はもう灰色じゃなかった。
ぼくのいないこの世界は。
<了>