雨の昼下がり

雨の昼下がり。
人気の少ない並木道。
お気に入りの赤い傘を差して歩く。

日々の暑さを忘れさせてくれるひんやりとした空気が
あたしの髪をしっとりと潤す。
半袖の腕に当たる雨粒が気持ちいい。
濡れた木の葉は瑞々しくきらめく。
空はどんよりした灰色だけど、なんとなく心が弾む。

雨の昼下がり。
いつもとはちょっとだけ違う顔を見せる街。
その音、その色、その匂い。
季節の雫を全身で感じる。
時間はただのんびりと流れてゆく。

やがてあたしは街外れの高台に辿り着く。
開ける視界。
眼下には住み慣れた街が一望できる。
うっすらと靄(もや)のかかったような街並は
なんだか少し神秘的。

ふわり。
風が吹いた。
雨滴をはらんだ風はあたしの髪を優しく揺らす。
あたしはしばし、髪を風に委ねて目を細める。
……いい風。
……でも。
これもまた”違う”んだ。

気が付くと空に闇色が混じる時間帯になっていた。
あたしはゆっくりと踵を返す。
そしてまたいつもの場所へと向かう。
あたしだけの風を待つために。
<了>

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