ふたり

背中合わせの「わたし」と「私」。
交差する光と影。
静かに流れる時間の中で
ふたりは永久(とこしえ)にたゆたう。

頭上に漂う雲のヴェール。
その1枚向こうで見え隠れする、儚げな月。
満月の魔力で、すべてはほの蒼く染められてゆく。
大地も、木々も、ふたりの心も…。

空を見上げる「わたし」。
涙を浮かべ、うつむく「私」。
2つの世界。
2つの心。
溶け合っては離れ、そしてまた溶け合う。

やがて月は光を失い、混沌がその黒い翼で空を覆う。
何もかもが堕ちてゆく中で
ふたりだけはずっとここにいる。

いつまでも変わらない「わたし」と「私」。
その手に握られた真白い羽根は、彼方からの贈り物。
2つの心をつなぐ小さな絆。

背中合わせの「わたし」と「私」。
交差する心と心。
定められた時間の中で
ふたりは永久にたゆたう…。
<了>

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