空の頂

誰もが見上げる遥かなる高み。
空の頂に立つ少女。
頭上に広がる無限の蒼穹。
眼下に広がる無窮の雲海。
その狭間にひとり佇む

彼方の星から来た風を迎え、
この星から旅立つ風を見送る。
それが彼女の役目。
彼女がここから動くことはない。
ただ吹き抜ける風に目を細めるだけだ。

同じに見えて日々少しずつ異なる表情を見せる世界。
例えばそれは雲の形。
雲間に顔を覗かせる海の色。
季節を運ぶ風の匂い。
だから彼女が退屈することはなかった。

風向きが変わった。
ふと思い立って彼女は歌を口ずさむ。
名前は知らない。
遠い昔に風に教わった歌。
歌は上昇気流に乗り、やがて重力から解き放たれる。
そして果てのない星の海へ。

いつか誰かに届くだろうか。
彼女の奏でた小さな歌は。
遠い遠い宇宙の彼方で。
静かに風を待ち続けている誰かのもとへ。
<了>

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