月。
闇夜の空にぽっかり浮かぶ月。
赤味がかった黄金色に輝く月。
そのかけら一つ、空から落ちた。
時間を超え、空間を超え、ゆっくりと落ちてゆく。
いつまでも、いつまでも、いつまでも…。
どこまでも、どこまでも、どこまでも…。
やがてかけらは、小さな星の小さな泉に舞い降りた。
鬱蒼と茂る木々。
その静寂に守られた小さな泉。
澄んだ水面に触れたかけらは、
ゆっくりと水に溶けてゆく。
そして泉は赤味がかった黄金色に染まる。
夜半過ぎ、泉を訪れる人影ひとつ。
それは小柄な少女だった。
少女は泉のほとりにしゃがみこむと、
手のひらに収まるぐらいの小瓶にその水を汲んだ。
瓶を透かしてみると、その中にはたしかに月があった。
それはほんのひとかけら。
それでも紛れもなく月そのものだった。
小瓶を大事そうにポケットにしまうと、
少女はそっと泉をあとにした。
そして泉に静寂が戻る。
赤味がかった黄金色の水をたたえた泉は、
静かに、安らかに、眠りについた。
またいつか月を求める誰かがやってくるまで。
またいつか月のかけらが降ってくるまで。
<了>