あたしは再びここに来たの。
風の吹きぬけてゆくこの場所に。
ただひたすらに天へと伸びる尖塔。
根元は太く、上にいくほど細くなる。
つぎはぎだらけに見えるのは、長い時間をかけて
少しずつ積み上げ、
少しずつ修復してきたものだから。
場所によっては工事中を表わす黄色と黒のストライプが残り、
ともすると、いまだに鉄骨が剥き出しだったりもする。
ヒトの唯一の希望が託されたもの。
ヒトが生きられる最後の場所。
そう、すべては赤い大地から逃れるため…。
いつからだろう?
この塔が成長をやめたのは。
徐々に人工の光が失われ、ささやかな営みも消え果た。
1階も、27階も、349階も、すべてが廃虚に変わっていった。
昼でも薄暗い誰もいなくなった世界の中
一人さまよっていた、あたし。
そしてあの日、あたしはここに辿り着いた。
太陽の恵みをうけて息づく草たち。
一面に広がる白い雲海。
それがここからの景色だ。
赤い大地とも、ひとけの無い廃虚とも異質な空間。
地に深く根を下ろし、雲を貫いた塔の先端。
この世で天に一番近い場所。
あたしはここにいる。
眩しい光に目を細め
吹き抜ける風に身をゆだねてみる。
風は今日も気まぐれで、
あたしの髪をふわりと静かに踊らせてみるの。
あのときと同じ風。
…いや、でも本当は同じじゃないんだ。
とどまることなくながれ続ける、風。
世界を旅して、再びここに帰ってきたんだ。
だから同じじゃない。
あたしがあの時と同じじゃないように…。
もはや伸びることのない尖塔。
もはや流れることのない時間。
それでもあたしは生き続けたい、崩壊した世界の中で。
そしてまたいつか、懐かしい風に会いに来るよ。
自由な空を旅する、きみ。
閉じた世界で生きる、あたし。
でもね、こんど会う時までに、爽やかで優しいきみに負けないくらい
素敵になってみせるから。
今よりもっとあたしらしいあたしに…。
じゃあ、またね!!
<了>