THE LAST FLOWER

いつから歩いているんだろう?
いつまで歩いているんだろう?
真っ暗闇。
らせん階段。
ひたすら登っていく。

腕時計のボタンを押す。
青いバックライトに浮き上がった『23:09』の文字。
さっき見た時は16:34だったわね。
でも時間ってなに?
一つだけ分かるのは時計がまだ完全には止まってないってこと。
また歩き出す。

ひたすら登っていく。
でも、もしかしたら降りているのかもしれない。
わからない。
そんな事わかんない。
なぜ歩いてるかも覚えてない。
それでもあたしは歩いてる。

ちょっとひとやすみ。
階段に座って背中のリュックをおろす。
リュックの中のパンを一つまみだけ食べる。
あとどれだけあるのかな?
暗くてよくわからない。
まあいいや。
そしてまた歩き出す。

かすかな足音が近づいてくる。
上から誰かが来るんだ。
あたしが本当に登っているならね。
狭い階段ですれ違う。
時計のライトでうっすら見えたのは、あたしとおんなじくらいの女の子。
こころなしか微笑んでいるように見えた。
足音が遠ざかっていく。

どこから歩いているんだろう?
どこまで歩いているんだろう?
真っ暗闇。
らせん階段。
ふいに上の方に白っぽいものが見える。
ひかり?
別に急ぐつもりもないから、今のペースで歩く。
周りがだんだん明るくなる。
階段の終わりのその先から光がもれている。
そしてあと一歩…。

一瞬、視界が真っ白になる。
あれ?
でも、次の瞬間には真っ暗闇。
いつもと同じ真っ暗闇。
向こうの方で何かが光ってる。
そっちに歩いていく。

上り坂?
下り坂?
そんなの分からない。
まっすぐ歩いていく、真っ暗闇の中。
でも本当に歩いてるの?
もしかしたら、あたしは飛んでるのかな?
とにかく光る方へ。

ひかりだ。
ううん、違う。
白い花。
名前も知らない白い花。
たった一輪の白い花。
真っ暗闇の中の白い花。
しゃがんでじっと見つめてみる。
そうか。
だからあたしはここに来たんだ!

いつから歩いているんだろう?
いつまで歩いているんだろう?
真っ暗闇。
らせん階段。
ひたすら下っていく。
なんで歩いてるかは、まだわからない。
ただ、あたしは決めたんだ。
誰かに逢ったらきっと微笑んですれ違うんだって。

天に近いところにあるという、
忘れ去られた一輪の花。
THE LAST FLOWER。
<了>

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