何度目だろう、ここにやって来たのは。
この門の前に立つのは。
別の世界へ繋がってるという金色(こんじき)の門。
闇の中に佇んで燦然と輝く存在。
この世で唯一の希望の光。
ずっと夢見てた場所。
深く淀む暗闇をかき分けてようやく辿り着いた場所。
でも私は、門をくぐれなかった。
くぐる勇気が持てなかった。
最後の一歩がどうしても踏み出せなかった。
私は…、今日(いま)を失うのが怖かったんだ…。
門の前まで来ては引き返し、それでもあきらめきれず、
荘厳な門を遠くから見上げては、またそこへ向かう。
…その繰り返しだった。
見えない恐怖、そして自分の心と闘い続けていたんだ。
でも…。
その恐怖はもうない。
迷いは消えた。
そう、あの時から。
あの時、門の向こうからやってきた風。
あの柔らかな風が、私の迷いを吹き散らしてくれたんだ。
風の音、風の色、風の匂い…。
そのすべてが何故かとても懐かしく思えて。
心に何かがこみ上げてきて。
知らずに涙がこぼれた。
そして、静かに芽生えた決意。
…いこう!
風が呼んでる!
朽ち果てた今日(いま)はもういらない。
きっと私には明日(みらい)があるから。
いままでずっと踏み出せなかった一歩。
まだ見ぬ世界、門の向こうへの一歩。
その一歩を、胸をはって大きく踏み出した私。
今日から明日へ。
止まっていた時の歯車がゆっくりと回りだす…。
<了>