Moon on me

世界が闇に抱かれる頃、
僕はそっとこの場所へやってくる。
蔦の絡まるフェンスを乗り越えて中に入ると、
静寂が僕を迎えてくれる。
都会の中にぽつりと取り残された空間。
忘れ去られた深夜の操車場。

幾条もの錆びた線路が地を這う。
途切れ、絡まり、有限の空間の中でループし続ける。
放置された車輌たちが動き出すことはもうなく、
ただ朽ち果てる時を待つばかり。
ポイント切替器も信号も車止めも、
みんな時代遅れのオブジェでしかない。
それでも僕はこの場所が好きだった。

線路と線路の隙間、雑草のまばらに生えた地面に寝転がる。
自然と目に入るのは一面に広がる夜空。
そしてその空の遥か高みには大きな月があった。
雲の薄布の一枚向こう側からぼんやりと僕を照らす月。
月は何も語らず、ただそこに存在し続ける。
悠久の時の中で。
たとえ時の結界に閉ざされたこの場所が無くなろうとも。
その光で照らすものが無くなろうとも。
僕の頭上にはいつも超然たる月がある。
<了>

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