それは突然やって来た。
真っ青な夏空の下を駆ける、風。
草原に佇むわたしの髪をちょっと乱暴に撫でてゆく。
照りつける陽光の中にふと生まれる涼やかなひととき。
両手を広げて、目を閉じて、静かに風を感じる。
心の中にも染みこんでくる穏やかな空気。
耳を澄ませば風の囁きがきこえる。
小さな小さな囁きが。
―ずっと。ずっと、待ってたんだよ。―
うん。
わたしはただ頷く。
それでじゅうぶんだった。
気がつくとわたしは、風を追って青草の大地を走り出していた。
きっとわたしはどこへでも行ける。
風と一緒なら。
炎天の下も、月光の中も、たとえ季節が移ろいでも。
きっとわたしは走り続けられる。
そしてまだ見ぬ世界を探しに行くんだ。
ふと体が軽くなる感じ。
視界が広がっていく感じ。
翼を持たないわたしだけれど、
ふわり、ふわりと、いま空へ――
<了>