雨の檻に囚われて 今日も立ち尽くす、私ひとり。
暗雲からこぼれおちる雫。
それは雨。
白く煙る街並み。
遠く霞むビル群。
傘を差し、足早に行く人たちに私の姿は見えない。
つややかな黒髪がしっとりと肩にかかる。
胸元で重なった両手がきゅっと握られる。
濡れた全身が小刻みに震える。
波紋のたゆたう水たまりが不安気な私の顔を映す。
頬を伝うのは、雨粒? 涙?
降りしきる雨の中 今日も立ち尽くす、私ひとり。
雨。
すべてを等しく包みこんでゆく、その香り。
潤いを得て生き返る草花。
雫を浴びるたびに強くなるんだ。
そんな光景をぼんやり見つめている。
やがて雲間から一条の光が射し込む。
色を取り戻す街並み。
虹のリングを冠するビル群。
傘を閉じ、足取り軽く行く人たちに私の姿は見えない。
雨上がりのひととき。
心はずむ情景。
それなのに悲しいのは何故だろう?
私のまわりだけ雨が止まないのは何故だろう?
誰も私に気づかないのは何故だろう?
…だってそれは、別の世界のことだから。
私のいない世界のことだから。
止まない雨。
見えない檻。
そんな悲しい世界のなかでだけ、私は存在していられるの。
自分で降らせた雨。
自分で入った檻。
閉ざした心の中にある、ガラスのように儚い世界。
そこから抜け出せないでいる私。
早くここから飛び立ちたい!
早く果てしない青空に逢いたい!
でもそれは叶わぬ願い。
…今はまだ。
雨の檻に囚われて 今日も立ち尽くす、私ひとり。
いつか私が生まれかわれる日まで。
いつか心を解き放てる日まで。
雨はいつまでも降り続けるんだ。
ずっと、ずっと、ずっと……。
<了>