明け方の空。
電信柱の上に浮かぶ…月。
たなびく雲が時折その姿を覆い隠す。
十六夜の月は儚くて、
わずかに欠けたところから空に溶けてしまいそう。
冬の朝特有のきりっと引き締まった空気。
通り過ぎた昨晩の雨の残り香。
東の空の赤く染まりゆく色。
最後の夜明け。
この陽が沈むときに世界は終わるんだ。
そして…そのときを待つ私がいた。
…今日は川に行ってみよう。
ふとした、とりとめのない思いつき。
でもそんな気ままな時の過ごし方が好きなんだ。
そして私は歩き出した。
程なく辿り着いた川は、いつもと同じ顔していた。
だから私もいつも通りに遊んだ。
水と戯れ、風と戯れ、岸辺で本を読んだ。
バスケットに入れてきたお弁当を食べ、
暖かい日差しの中でつい居眠りしてしまう。
そして…よく覚えていないけど、とても優しい夢を見た。
目を覚ましたときはもう夕方だった。
太陽は山の端に沈みかけ、最後の光を放っていた。
最後の日の、最後の光。
その光をぼんやり眺めていた。
光はゆっくりゆらめき、
やがて空から消えていった。
闇。
闇がそこにある。
全てが闇に溶けてゆく。
私も闇に溶けてゆく。
そして闇の腕(かいな)に抱かれながら、
世界は静かに終わりを告げた。
<了>