たったひとつの世界

眼下に広がる青い海。
どこまでも果てしなく続いている。
ここに居ると、この惑星に海しかないということがよくわかる。
そんなところに僕はいる。

頭上に広がる蒼い空。
昼は太陽、夜は月と星だけがある場所。
光の源たる空を遮るものは何もないのだ。
そんなところに僕はいる。

足元に広がる緑の草原。
しっかりと根付き、島をくまなく覆っている。
互いに連携しているようで、それでいて個々の生を主張する草たち。
そんなところに僕はいる。

白い雲のヴェールを纏い、天空に浮かぶ小さな島。
気まぐれな風に運ばれ、あてもなくさまよい続ける。
空と海のあいだを
…草原と、そこに立つ僕だけを乗せて。

だが、この島は本当に流れているのだろうか。
止まってはいないだろうか。
時間は本当に流れているのだろうか。
止まってはいないだろうか。
それを確かめる術は僕にはない。
たとえ星が巡り、月日が移ったとしても、
僕はずっとここにいるのだから。
これが永遠というものなんだろうか。
あるいは、そんなものははじめから存在してはいなかったのだろうか。
…はじめ?
”はじめ”とは何か?
”おわり”が無いのと同様に、やはり”はじめ”も無いのだろうか。
そんなことを考えているうちにも日は沈んでゆく。

そよ風が草を撫でる音だけが耳を潤す。
ほのかな月明かりに照らされて、眠りへといざなわれる。
起きた時に僕はここにいるだろうか、このひとりぼっちの世界に。
たったひとつの世界に。
…いるだろう。
そして、いつまでもここにいつづけるだろう。
青い海と、蒼い空と、緑の草原がある限りは。
ずっと、ずっと、いつまでも……。
<了>

back