信号機

横たわる静寂。
包み込む暗闇。
静止した時間の中に
忘れ去られた信号機がふたつ。

山深い田舎道。
鬱蒼と茂る木々の合間。
小さな交差点の片隅に
とり残された信号機がふたつ。

呼吸を乱すことなく、交互に灯る赤と黄の光。
黒の世界にぼんやりと浮かび上がる。
もう誰もこの道を通ることはないのに。
もう誰もこの光を見ることはないのに。

遥か彼方に月が浮かんでいる。
青白く淡い光芒を放つ満月は
ずっと同じ空間に存在しつづけている。
その向こう側に広がる星の海も
夜色のカーテンに描かれた模様でしかない。

あのときに止まった時間。
あのときに止まった世界。
ヒトも、モノも、すべて。
でも…。

終わらない夜。
始まらない朝。
一瞬と永遠の間隙に
何も知らない信号機がふたつ。

今もまだ瞬き続ける。
何も知らぬままに。
<了>

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