空へ…

新緑をいっぱいにまとった街路樹。
きらきらと降りそそぐ木漏れ日。
石畳の遊歩道…。
私のお気に入りの場所。
誰もいない秘密の場所。

瞳をとじて、風のささやきに、そっと耳を傾けてみる。
遠く、近く、流れる風は、私にじゃれついては、
また気まぐれな旅をつづけてゆく。
私の髪をなびかせる風。
私の頬を優しくなでる風。

そんな感じがだんだんと薄れ、やがて消えていく瞬間、
軽やかに舞い上がった私の心は、まっ青な空にとけていくんだ。

ただ大きくて、大きくて、大きくて、いつまでもそこにある青空。
変わらないものがあるとしたら、それはきっと、この空のことだね。
そして今、心が空とひとつになる―――

…ふいに、また風が聞こえはじめる。
そう、それはほんの一瞬のできごと。
風がひとやすみするくらいの、ちいさな時間。
でもその瞬間、私は確かに永遠を感じることができるの。
有限の時間と、有限の空間に閉ざされた、この世界のなかで…。

だからここは、私のお気に入りの場所。
彼方への扉と出会える秘密の場所。
<了>

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