うみ

のぼり坂。
てっぺんまではあと少し。
視界が開けてくる。
空がある。
そしてその下は…。
うみだ。

うみ。
見渡すかぎりのうみ。
どこまでも続く海色のうみ。
誰もいないうみ。

天を支える摩天楼たち。
海から生えて、雲間へと消えてゆく。
あの日、すべてがうみに沈んだ。
灰色の柱だけが知ってる。

うみ。
視界を横切る海鳥が何故か悲しい。
白い翼は何を思うのだろうか。
静かな時間。
ふたりぼっちのうみ。

海風が頬につめたい。
光の降る昼下がり。
雲はなにも語らない。
波はなにも語らない。

うみ。
いつでもそこにあるうみ。
永遠を生き続けるうみ。
すべてが無へと帰るその日まで。
そしてまた…誰もいないうみ。
<了>

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