丘の上にひとり佇む、僕
まばらに草が生えているだけのこの丘、
この星で一番空に近い場所に…。
見下ろす先には見なれた風景。
深緑の木々は徐々に街並みへと変わり、
やがて砂浜から波立つ海へと下ってゆく。
見上げる先には一面の海。
天を覆う静かな水面は日増しに大地へと引き寄せられ、
今にもこの手が届きそうなくらいだ。
港に停泊するいくつもの船影。
スレイプニル級3番艦『ベイヤール』を旗艦とする艦隊だ。
この星からの避難民を運ぶ最後の便。
いずれ海へと没するこの星から…。
熱く強い陽射しは水の層に阻まれて、
微かな光のかけらとなってようやく大地に辿り着く。
時折、風に吹き散らされた海の雫が、
そっと優しく僕に降りそそぐ。
束の間の清涼感。
穏やかな夏のひととき…。
やがて日はゆっくりと傾き、海と海との間に沈んで行く。
鮮やかなオレンジ色に満ちる世界。
天の海も地の海も、僕と同じ色を成すんだ。
1日のうちで唯一、太陽をじかに拝むことができる時間。
今この時のために、僕は毎日ここに立つのだ。
汽笛とともに、この小さな星から飛び立つ船たち。
夜闇の中に無数の眩い光点を浮かべて。
もうここに来る者は誰もいない。
ここを去る者も誰もいない。
ただ僕だけがここに立つ。
…そしてまた静寂。
この星にたった一人の僕。
僕はいつまでもここで夕日を眺めるのだろう。
海と海との間に沈む夕日を。
いつか2つの海が重なり合うその日まで。
そう、それでいいんだ。
海と共に生き、海と一つになることが
僕の望みなのだから。
大いなる海に包まれて消えゆく小さな水の惑星。
その上に佇むちっぽけな僕。
僕が海と一つになる日、
もうこの星から夕日は見えない…。
<了>