ぽつり、ぽつり。
空からこぼれ落ちた小さな水の子供たち。
わっ、雨だ。
静かに降りはじめる。
今日はあいにく傘を持ってきてなかったんだよ。
どうしよう?
あたりを見回す。
えーと……あっ!
木があった。
大きな木。
とても大きな木。
いつもは何気なく通り過ぎてたけど、こんな立派な木があったんだ。
よしっ、ここで少し雨宿りさせてもらおう。
木陰に入ってほっと一息つく。
雨音はだんだん大きくなり、生い茂る葉の隙間からときどき水滴がしたたり落ちる。
遠くの景色は白く霞んで、カーテン越しの絵画のよう。
雨の匂いがふんわりと空気に溶けて、私の心にも染みこんでくる。
ふと見ると、道端に小さな花が咲いていた。
名も知らなぬその花の上で飛び跳ねる雫。
そのたびに花は、びっくりしたように小さく身震いするんだ。
かわいいね。
雨に包まれた世界。
すぐ近くにあったのに、今まで気付かなかった世界。
ちょっぴり楽しげで、ちょっぴり寂しげで、そして…とっても素敵な世界。
たまには、こんな世界に遊びに行くのもいいかもね。
足をとめて、時を止めて。
しばらくすると雨は止んで、暖かな木漏れ日が射し込んでくる。
鳥たちは、待ちかねたように青空へと羽ばたいてゆく。
私は大きく伸びをすると、木陰から元気よく飛び出す。
水たまりの残る見慣れた通学路へ。
そしてまた、私の『いつも』が動き出すの。
<了>