やっとここに辿り着いた。
そう、辿り着いたんだよ。
キミとの約束の地に。
眼下に広がる満開の桜たち。
どこまでも続くピンク色の絨毯。
春風に散った花びらはゆるやかに舞い踊り、
二度とないこの瞬間を彩っている。
頭上を覆う分厚い灰色の雲。
その雲間から射し込む金色の光。
全てを癒し全てを見守る、
慈愛に満ちたあたたかなきらめき。
わたしはこの神々しい風景にしばし心を奪われた。
まるで絵画の中の世界にいるような錯覚。
でもこの幻想的な眺めはすべて現実なんだ。
そして、もうキミがいないことも。
旅の半ばで倒れたキミ。
交わした約束。
紡いだ想い。
そして最後のことば。
ふと一瞬の浮遊感。
風向きが上昇気流になる。
胸に抱きしめていたキミの翼を今、
空へと解き放つ。
遠く高く舞い上がる翼。
純白の羽毛は桜吹雪に溶け、
光の粒子となって天を駆ける。
それは雲の隙間を貫いて、
その先に広がる無限の蒼穹へと導かれていくんだ。
嬉しくて、寂しくて、涙がでそうになる。
でももう泣かないって決めたから。
きっと笑顔で見送るから。
だから……届けて。
わたしのこの想いも。
遥かなる大空へ。
そしてキミのもとへ。
<了>