ごりっ。
ごりっ。
歪な足音がだだっ広い空間に響く。
ごつごつした岩の感触を踏みしめながら
暗闇の中をひとり進む。
奥へ、更に奥へ…。
遥か昔に廃棄された資源小惑星。
本星から久しく忘れ去られた処。
有益な鉱物は採掘し尽くされ、
今では訪れる人などない。
…俺のようなはぐれ者を除いて。
複雑に入り組んだ坑道に灯りはなく、
所々で壁や天井が崩落し、行く手を拒む。
暗黒の迷宮はさながら、
一度入れば二度と戻ることのできない
魔窟の様相を呈していた。
それでも俺のように暗闇に適応した種族ならば
さほど苦もなく探索することができる。
ましてやすべての坑道の構造は俺の頭の中にある。
迷う要素などないのだ。
この星に着いてからどれだけ時間が経っただろうか。
俺は行き止まりに辿り着いていた。
そこは坑道の最奥部。
そこにあるのは…闇。
光に汚されていない純粋な闇。
ここまで闇の純度の高い場所では、
さしもの俺も視界に漆黒以外を映すことはできない。
静寂の中で俺は、背負っていた箱を床に下ろし、
手探りでその蓋を開ける。
そして箱の中が完全に闇に満たされるのを待つ。
光溢れた本星の大都会では、
富裕層の人々が嗜好品として渇望しているそうだが、
生まれたときから闇の中に居る俺にはその価値は全く理解できない。
ただこの闇を売れば生活の糧が得られるということだけだ。
しばらく闇に目を凝らし続けるが、それでもやはり闇は闇であり、
他の何者も見出すことはできなかった。
俺は諦めて溜息をひとつ吐く。
そして適当な岩に腰を降ろすと、俺は全身を濃厚な闇に委ねた。
…もうそろそろいいだろうか。
俺は顔を上げるとやはり手探りで箱の蓋を閉め、
更に中身が漏れないように厳重なロックを施した。
そして俺はゆっくりと箱を背負い、また歩き始める。
闇と引き換えに明日の糧を得るために。
今日も星明りさえ差さない暗き坑道(みち)を往く。
<了>