2005年 英・インターナショナルS 観戦記


2005年8月、インターナショナルS(The Juddmonte International Stakes)観戦のため、英ヨーク競馬場(York Racecourse)へ行ってきました。 たまたま日本から前年の年度代表馬ゼンノロブロイの参戦もあり、思いがけずエキサイティングな観戦となりました。
  1. なぜインターナショナルS ?
  2. ヨークへの道
  3. ヨーク競馬場
  4. 馬券とレース
  5. そしてインターナショナルS
  6. おわりに

なぜインターナショナルS ?

英ダービーだのフランス凱旋門賞だののビッグレースは、あまり詳しくない初心者競馬ファンでも知っているレースだろう。 しかし、ヨーク競馬場で行われるインターナショナルS というレースは、日本ではそこそこ詳しい人でないと知らないかもしれない。 だが、インターナショナルS はもちろんれっきとした国際 G1 である。 というか、れっきとしたどころかヨーロッパの中距離路線における超ウルトラスーパー重要な一戦なのだ。

歴代の勝ち馬の名前がそれを物語っている。1972年に行われた第1回の勝ち馬はブライアンズタイムの父であるロベルト。ちなみにその時負かした相手はイギリス史上に残る名馬ブリガディアジェラートだ(その時まで16連勝中だった)。 最近 5年の勝ち馬を見ても、ジャイアンツコーズウェイ、サキー、ネイエフ、ファルブラヴ、スラマニ、と名馬ばかり。 本当に大レースなのだ。

今回は別件でイギリスへ行く用事があったのだが、ちょうど日程が合ったこともあり、ぜひ観戦に行こうと思っていた。 そうこうしているうちに昨年の日本の年度代表馬ゼンノロブロイが参戦するというニュースを聞いた。おお、ちょうどいい。


ヨークへの道

ロンドンに滞在していたのでヨークへは日帰りで電車で行った。

ハリーポッターで有名なキングスクロス駅(King's Cross)から特急で 2時間ほど。 第1R のスタートは 13:20 だが、競馬場をあちこち探検する時間がほしいので、9:00 ロンドン発 → 10:58 ヨーク着 で出発。

カートがめり込む 9 と 3/4 番線

ちなみに電車の切符は事前にインターネット(ここ http://ojp.nationalrail.co.uk/) で予約しておいた。 一番安い普通席の変更不可の往復切符で£30 (この時は£1=200円ぐらい)。 当日になると値段は高いし空いている保証はないし、できれば早めに指定席を予約しておいた方がいいだろう。 実際結構混んでいた。

先に帰りのことを書いてしまうが、19:10 ヨーク発 → 21:15 ロンドン着 の電車で戻ってきた。 全7R 中 5R が終わったところで競馬場を離れ、ヨーク市街地でヨーク大聖堂(York Minster)などを一回り観光して、次の日のために余裕を残してロンドンに戻れるという点で、ちょうどいいスケジュールだったと思う。 もちろんレースを最後まで観てからさらにヨークの街を回りたいという人はもっと遅い時間の電車でいいだろう。 最終レースの発走は 16:45 だ。

さて、行きの電車に話は戻る。指定された席は4人掛けのボックス席。 ちなみにイギリスの電車は、日本と違って指定席の車両と自由席の車両が分かれているわけでなく、指定席として予約された席には椅子の頭のところにカードを挿しておく仕組になっている。そのためどの席がどの駅からどの駅まで予約されているのか一目で分かる。

なので、私の向かいに座ったイギリス人のおじいさんがヨークに行くことは出発前から分かっていた。 するとそのおじいさん、出発したと思ったらおもむろにレーシング・ポスト(Racing Post:イギリスの有名な競馬新聞)を広げて読み始めるではないか。 おお、あなたも競馬観戦ですな。ということで頃合いをみて話しかけてみた。

「ヨーク競馬場に行くんですね?」
「そうだが」
「ぼくも行くんです」
「おお、そうかね。今年は日本から強いのが来ているね」

とかなんとかいう感じで競馬談義が始まり、ヨーク駅から競馬場への行き方とか、エプソムでダービーを観るのが夢だと言ったらエプソム競馬場のすばらしさとか、ロイヤルアスコット開催の話とか、ヨークへ行くなら大聖堂も観に行った方がいいよとか、さんざん色々と話をさせてもらった(といっても 8割方おじいさんがしゃべってたけど ^^;)。 ついでにレーシング・ポストも熟読させてもらってしまった。いやー、競馬ファンに国境はありませんな。 (しかし、おじいさんは武豊騎手を知らなかった。残念)

そうこうするうちに 11:00 前にヨーク駅に到着。 おじいさんに競馬場行きのバス乗り場を教えてもらった(駅を出て道を渡った右手前方。待ち行列ができているのですぐ分かる)が、とりあえずヨーク駅周辺を見て回りたかったので、おじいさんとはそこでお別れ。どうもありがとう。

10分ほどうろうろした後、さあ行くぜと思いバス乗り場へ行ったが、いきなり誰もいないではないか。 よくよく見ると 「競馬場行きバスはヨークロイヤルホテル(York Royal Hotel)前」 という貼り紙が出ていた。 おいおい、この 10分の間に乗り場が変わっちゃったのか? で、そのロイヤルホテルは駅を出て道を渡らずに左手に 50m ほど行ったところにあり、果たして行列ができていたのであった。かなり謎。 やってきたバスは片道£2、往復£3 ということだった。あれ? 無料のシャトルバスがあると聞いていたような気がしたけどな。これも謎。 ひょっとしてもっとよく探せば無料バスもあるのかもと思ったが、まあいいや、ということで往復切符を購入。 往復切符を買うには、乗る時に 「Return, please.」 とでも言えばよい。

そして 5分ぐらいバスに揺られ、ついに競馬場に到着。イギリスの競馬場は初見参だ。 思わず武豊ぶるい、いや、武者ぶるいが。

ロイヤルホテル前バス乗り場
バスを降りた所で競馬場を望む

ヨーク競馬場

競馬場に入るにはバスを降りてからさらに少し歩かなければならない。 しかし降車場所から既にメインスタンドがよく見えるので、入場前に気合いを高めていくにはちょうどいい。

歩いていくとまず特別席の入り口がある。特別席に入るにはジャケットとネクタイが必要だ。さすがイギリス競馬。 そして入場料は£55(高っ!)。 普通の入場券(Grandstand & Paddock)の売場はさらに奥まで行かないとならず、そんなわけで最初は全員ネクタイ&£55 なのかと思ってちょっとあせってしまった。ネクタイなんて持っていかなかったし。

奥の方へ行ってようやく普通券を売っている窓口を発見した。といっても現金ならゲートで直接支払ってもいいらしい。 窓口が混雑していたのでゲート直行。ちなみに普通券でも£24 する。 これも日本の競馬場と比べるとかなり高いが、今まで行った欧米の競馬場はどこもそうだ。 馬券の売り上げで稼ぐギャンブル色の濃い日本と、スポーツ観戦的要素が大きい欧米の違いだろう。

入場ゲート

中の様子も日本の競馬場とはちょっと違う。 男性はみんな襟付きシャツを着ているし、女性は帽子を被っている人がやたら多いし、いかにも「淑女・紳士の国」といった趣なのだ。 フランスのロンシャン競馬場へ行った時も着飾った人はたくさんいたが、なんというかこちらの方が平均的なレベルが高い感じ。 Tシャツの人はほとんどいなかった。 私も一応襟付きシャツは着ていったがジーンズだったので、せっかくのイギリス競馬なんだしもう少しちゃんとした格好で行くべきだったかと反省。 そしてレープロは無料配布ではなく有料だ。しかも 2種類ある。 安い方でも£2.5。たけーなー。ユメケイバーズへのお土産はここで断念。

場内に入ったところ
レープロ売場

馬場は左回りだ。とにかく敷地が広くてホームストレッチがなんと 1000m近くある。 2400m のレースのスタートは向こう正面右側ぐらいから。 3200m でもバックストレッチの引き込み線(かなり長い)からスタートで、周回が必要な距離のレースはないようだ。 ただしコースの幅はあまり広くない。 この日の 2R は 18頭立てのレースだったが、それ以外は 6〜9頭ぐらいだった。それほど多頭数のレースはないのだろう。

長い直線ではあるが観客が入れるエリアは限られている。ゴール近辺 400m ぐらいの範囲だろうか。 収容人数は日本の競馬場には遠く扱ばないだろう。 内馬場にある時計台が特徴的だった。

中央に時計台が見える
メインスタンド

はるか彼方の 4コーナー(左端)
正面から見た直線

パドックはスタンドからコースに向かって右手にある。 コースに隣接しているので、出走馬はパドックからダイレクトに本馬場入場することになる。 ここのパドックは意外とこじんまりしているし周りのスペースもそれほどあるわけではないので人がたくさん来ると混雑しそうな気がするが、始まってみれば意外に大丈夫だった。 というのは、馬がパドックを周回する時間がやたら短いのだ。 レース間隔は 35分。前のレースが終わった後、勝ち馬がパドックにやって来て表彰式をやって(要するにウィナーズサークルも兼ねている)、次のレースの出走馬たちが 15分前ぐらいにばらばらと出てきて、10分前にジョッキーが乗ってそのまま本馬場入場といったところ。 そんなわけで一生懸命パドックで馬を観察しようという人はあまりいない。 テンポが早いのはいいことだが、じっくり検討したい日本のファンには辛いかもしれない。

パドック

馬券とレース

馬券販売のシステムが一番面食らった。 日本の競馬場の窓口らしきものもあることはあるが、"totepool" という店の看板のようなものを出していて、最初サッカーくじを競馬場内で売っているのかと思った(それは toto だ!)。

しかしそれよりもさらに驚くのは、メインスタンドと馬場の間の広場に日本の予想屋のような小さなスタンドがバラバラと置かれ、なんとそこで馬券を売っていたことだ。しかもみんな看板が違う。 しかし仕組みはどこも同じで、だいたい 3人で 1つの店(?)を出していて、2人は観客の方を向いて注文を聞き、もう 1人は後ろでコンピュータ入力して馬券をプリントしているといった具合だ。 小さな電光掲示板にオッズを表示している店もあれば、手書きで一生懸命オッズを更新しているところもある。 また、店によって購入単価が£2 だったり£5 だったりと異なる。 おそらくこれらの店はブックメーカーの出店なのだろう。

tote のマークシート
立ち並ぶ馬券の出店

オッズは購入時点のものがそのまま使われる。 当たった場合の払い戻し金額が既に馬券に書かれているのだ。話には聞いていた仕組みだが、実際目にするとこれは面白い。 買った後にオッズが上がっていくと悔しいが。^^;

一つのレースで完結する馬券の種類は本場にしては驚くほど少ない。 totepool では、日本で言うところの単勝、複勝、馬単、三連単しかなかった。 その代わり(?)複数のレースにまたがる馬券がいくつかある。 指定された 6R すべての複勝を当てる 「placepot」、その単勝版 「jackpot」、最後 4R の複勝を当てる 「quadpot」、各週土曜日の指定レースの単勝を 6週連続当てる 「scoop6」 といったところ。 とりあえず placepot を 2点買ってみた。

単勝と複勝はマークシートがなく、窓口で口頭で言うしかない。 といっても例えば 「Win of number 3, £2, please.」 とか言えば十分だ。 ただし 「£」 は 「ポンド」 でなく 「パウンド」 と言わないと通じないことがあるので注意。

ちなみに(かなり危険な気がするが)クレジットカードでも馬券が買える。 入場料で思いのほか現金を使ってしまったこともあり、ものは試しとばかり 1回買ってみた。 が、パスポートのコピーはとられるし時間はかかるしあまりいいことはなかった。 馬券重視の方は現金をちゃんと持っていくことをお勧めする。

観客は第1R からかなりアツい。 G1 の日ということもあるのだろうが、スタンドは一杯だし歓声もかなりなものだ。


そしてインターナショナルS

お目当てのインターナショナルSは第4R。 そこで第3R の観戦は捨て、早いうちにパドックの最前列に張りついた。 馬券はゼンノロブロイの単勝と馬単総流しを買った。 ゼンノロブロイは少しチャカついていたが問題あるほどではない。 むしろ気合いが乗っていい感じのようにも見える。

ゼンノロブロイの単勝馬券
パドックでのゼンノロブロイ

と、ここで分かったことだが、私の立ち位置(スタンドに近い方)はちょっと失敗だった。 日本の関係者は私から見てパドックの対角線の先に集まってしまってよく見えないのだ。 日本が誇るリーディングジョッキー武豊騎手が登場した時にスーツ姿の福永裕一騎手も一緒に現れたのは確認できたがやっぱり遠い。 日本が誇るリーディングトレーナー藤沢和雄調教師が話をしている様子も見えるのだがいかんせん遠い。 考えてみれば表彰台がパドック内のスタンド寄りに置かれていて次レースの関係者は反対側にいくのだからもっと奥の方に陣取るべきだったか。 しかしそれだとスタンドに移動しにくいからいい場所でレースを見られなくなってしまうし...

せっかくなので武豊騎手が乗った後に回ってくるのを待とうかとも思ったが、やはりレースをいい位置で見たいので断念。 2周ぐらいゼンノロブロイが前を通ったところでさっさと移動しようとした。そしたらいきなり騎乗命令が出るではないか。 前述のようにパドック周回数はやたらと短い。分かっちゃいたけどあわててスタンドへ。全体を見渡せる上の方の場所をなんとかキープできた。

本馬場入場するゼンノロブロイ

今年のインターナショナルSは 7頭立てでゼンノロブロイは差のない 3番人気だった。ものすごく勝てそうな予感がする。 私はゼンノロブロイファンではないのだが(むしろあまり好きではなかった。失礼!)、こういう状況になるともう愛国心の塊だ。 たのむ。この目で生で日本馬海外G1 制覇を見させてくれ。

スタート直後ゼンノロブロイは中団にいたが、徐々に下がっていって後方2番手となった。 ヨーロッパの競馬って基本的にスローペースだろ? そんなところにいていいのか? 大丈夫なのか?

4コーナーを回って直線を向いた時もまだ後方2番手(といってもまだ 1000m ほど残っているが)。 さあそこから伸びて来い! しかしなんだか右に行ったり左に行ったり、前の馬を捌くのに苦労しているようにも見える。 外だ! 外に持ち出してくれ!

最後の 200m はすごかった。ようやく外に持ち出したゼンノロブロイと、さらにその外、最後方から伸びてきたエレクトロキューショニスト(Electrocutionist)を含めた 5頭による壮絶な叩き合い。外2頭の脚色がいいようにも見えるが内の 3頭をなかなか交わせない。 隣にいたおじさんが 「Rob Roy! Rob Roy!」 と叫んでいる。 おお、おっさん。あんたもゼンノロブロイ買ってるのか。にゃろう、負けてたまるか。

「来い! 差せ! 差せ!」

するとおじさんと私の声が届いたのか(絶対気のせい)、残り 100m で ついにゼンノロブロイが抜け出してきた。

「差せ差せ差せ〜! よっしゃ差した! そのままそのままそのまま行け! 行け! そのままだあああぁぁぁぁ〜」

… 勝ったのは最後 30m でゼンノロブロイをクビ差交わしたエレクトロキューショニスト。 ゼンノロブロイは惜しくも 2着に敗れた。


おわりに

いや、惜しかった。本当に惜しかった。

隣にいたおじさんは実は複勝をしこたま買っていたようで(馬券を自慢された ^^;)、こちらを見ながら 「Yes !」 とか 「Got it !」 とか叫んでる。喜んでいるとは思うのだが顔が全然笑ってない。さらに顔はまっ赤で目はちょー真剣だ(おっさん恐いよ ^^;)。

そんな血管の切れそうなおじさんの横でぼーぜんと佇む私なのであった。

気がつけば声が枯れているし(最後の 200m ぐらいしか叫んでないぞ)、階段を降りようとしたら膝がカクカクする。 エルコンドルパサーが 1999年に凱旋門賞で 2着になった時、生中継のテレビの前でかなり脱力した記憶があるが、今回は現場にいたこととあまりの惜しさとで、その時以上に放心状態だった。

レース後、表彰式をやっているパドックへ行ってみるとゼンノロブロイと関係者がパドック内の奥の方に集まっているのが見える。 武豊騎手は見あたらなかったが、藤沢調教師や厩務員は関係者の人たちと話をしている。 みんな笑顔だったけどきっと内心は違うだろう。単なる観客の 1人である私でさえこれだけ悔しいんだから。

レース後の藤沢師 in パドック

レース後のゼンノロブロイ
エレクトロキューショニスト

クールダウンするゼンノロブロイ(と後から加わった勝ち馬エレクトロキューショニスト)をしばらく眺めていたが、2頭が引き上げたところでちょうど発走の第5R を見て帰ることにした。 まだレースは 2つほど残っているけど、あまりの脱力感で立ち直れないし、競馬場は十分堪能したし、帰りのバスが混みそうだし...

それにしても目の前で日本馬が海外 G1 を勝ちそうになることがこんなにアツくなることだとは知らなかった。 今までにも日本馬が出ているレースを見たことはあるが、いずれも惜しくはなかったのでね。

いつかこの目でその瞬間を見よう。 新しい野望を胸にイギリス競馬初参戦となったヨーク競馬場を後にしたのであった。

おわり
おおたん牧場
ユメケイバーズ

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