食べ物の恨み

「ただいま〜…って、わっ」
玄関を開けた瞬間に何かが耳元をかすめていった。
それを追うように燃えさかる炎の柱が続いた。
そして。
「こ〜ら〜!待て〜この泥棒猫〜!!」
大声を上げながら制服姿の少女が駆けて来る。
どうやら今”LITOKAN”を放ったのは姉の紅葉だったようだ。
ということは……。
「あ、青葉。あのバカ猫見なかった?」
「えっ、シロのこと?多分外だと思うよ」
「さんきゅっ!」
それだけ言うとあっという間に靴を履いて外へと飛び出して行った。
それを見届けて青葉はリビングに入る。
案の定、そこには紅葉の大好物の水羊羹…の残骸があった。
恐らくシロに食われた後の。
「はぁっ…。お姉ちゃんもシロもしょうがないなぁ…」
そして青葉は、隠しておいた自分の分の水羊羹を冷蔵庫から取り出し、
何事もなかったかのようにそれを食べ始めた。

先程の”LITOKAN”のせいだろう、玄関先の茂みが燃えていた。
それでも、そんなことなどお構いなしで、
相変わらず追いかけっこを繰り広げる一人と一匹。
だがそれもいよいよ終盤局面に突入したようだ。
互いに立ち止まり、肩で息をしながら睨み合っていた。
しばしの沈黙。
それを破ったのは紅葉。
厳かに呪文を紡いでゆく。
それでもシロは動かない。
ここで動けば相手に隙を見せることになると、経験的に知っているからだ。
高まる緊張感。それが極大に達したとき。
「MALIKTO!!」
無数のエネルギー弾がシロに襲い掛かる。
シロは瞬時に全ての弾道を見極めると、紙一重のところで死の雨をかわす。
だが…。
「MABADI!!」
次の呪文がシロの身体を捕らえた。
見る見るうちに体力を奪われ瀕死の状態に陥るシロ。
「にゃぁ…」
微かな鳴き声が痛々しい。
一方の紅葉は笑顔でシロに近づいてゆく。
「ふふふ、とうとう捕まえたわよ」
顔は笑ってても、高位の攻撃呪文を連発してまで
シロを追い詰めた執念のオーラが全身から溢れていた。
「さて、食い逃げ犯に正義の鉄槌を下すとしましょうかね」
そう言いながら虚空から愛用の武器を取り出す。
それは巨大な木槌を金属板で強化し、無数のスパイクを生やした
禍々しいシロモノ、通称地獄の破城槌であった。
「………」
もはや声もなくただ震えるだけのシロ。
「大丈夫よ。後で”KADORTO”使って生き返らせてあげるから♪」
にやり。
その笑み、そのセリフ、そしてその武器はいずれも、
人々を導き国を統治する者―Lord―のものとはとても思えない
恐ろしいものであった。
そして…。

紅葉はシロに殴りかかった。
5回当たり、9327のダメージ。
シロはお星様になった。

かくして渾身の一撃を以って仇敵を討ち果たした紅葉は、
ポーズを決めると高らかにこう宣言したのであった。
「正義は必ず勝つのよっ!!」
<了>


使用ソフト
Adobe Photoshop 5.01(フォトレタッチソフト)

wiz風味文章付きの2頭身落書きです。
一応以前書いた『避暑』の続編(?)ということで、
塗り方も前のに合わせてみました。
オーソドックスにセーラー服&ポニーテールにしてみたけど、
なんだか全体のバランスが激しくわろし…。(涙)
ちなみに前回の主役が青葉(妹、Mage、中立)で
今回の主役が紅葉(姉、Lord、悪)ってことで。
この世界観の小ネタは色々練ってるので、
そのうち(絵が描けたら)またアップするかも。

…しかしこんなの描いてる暇があったら、
HDDに眠ってる賞味期限切れの時事ネタCGをさっさと描き上げねば。

2004.8.1

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